9/19
おおむね嘘の日記を書く。
本当のことを書くのが苦手なのだ。
会ったこともないのに思い出すだけでむかむかするほど嫌いなひとがいて、今日は久しぶりに他人にそのひとの話をした。実際に会ったことがないので声を伴わないイメージの中、その嫌いなひとはお猪口をひっくり返した下の口くらい器の小さいことを言い、無神経で、偉そうな割に根性がなく、向上心を持たず努力をしないことを正当化し、あらゆる己の弱さを身近な相手に責任転嫁した。
会ったことのないひとの方が100%嫌いになれる。一度でも会うとそのひとの人となりみたいなものが分かってしまうので、嫌いになりきるのがむずかしい。
だからそのひとのことは遠慮なく悪く言うことができるので、ひとしきり思うさま罵った。無理だ、理解できない、どうして周りの人間は一緒にいるのだろう、など。
聞いてくれた相手は、それは生理的にきっと無理なんだろうね。と笑った。
そういうことかもしれない。会ったことがないそのひとのことを、わたしは生理的に嫌悪している。そのひとはまさか会ったこともない、もしかすると存在も知らないわたしが、自分のことをこんなにも悪態をついて罵り、好き放題に貶しているとは知る由もないだろう。
きっとわたしもそうやって、生理的に嫌われたことがあるんだろうな。
興奮して喋りすぎた照れもあり、そう言って笑うと、相手は穏やかに言った。
そうかもしれないけど、きっとそれ以上にあなたのことを分かってくれる人がいるよ。
やさしい。不意打ちのやさしさは心に沁みる。
やさしく温かい気持ちは尖った心を溶かすので、あっという間に先程までの、ひとを悪く思う気持ちは飛んでいってしまう。なんであんなに言葉を重ねてよく知りもしない人間のことを罵ってしまったのか?反省と自己嫌悪でため息が出る。
ありがとう、あなたは人類に祝福されたひとだよ。あなたを見習う。
相手は何も答えずににこにこと笑っている。