嘘日記。

おおむね嘘を書いている。

5/10

リサは男によくもてるが、それが不快で仕方ないらしい。

わたしなぞ一般庶民代表の、あまり大勢に一挙に言い寄られた経験のない者からすれば、さぞ気分の良い状態なのではと思うのだが、現実に日々それを体験している彼女は断固こちらの意見を否定する。

「こちらがなんとも思っていない人間から好かれるということはね、欲しがられるということなのよ。わたしの肉体や感情やいろんなものを求めてこられるということ。わたしは全然その人に求めないし、その人の中にわたしの欲しいものは何もないの。でも向こうはわたしを欲しがって、そしてわたしがそいつを欲しがることをも求めてくるのよ。わたしの感情はわたしだけのものよ。あんたにくれてやる分はひとつもないっつーの。欲しいか欲しくないかはわたしが決める。よって不快、オブ不快です。」

 

以上が彼女の主張である。一般人たるわたしから言わせてもらえるなら、いささかクセが強い。

「一方的に、『僕のことも愛して!』と求愛されるならば確かにあなたの望むところではないかもしれないけれど、どちらかというと好意を持たれてチヤホヤされたりほんの少しえこ贔屓をしてもらう程度なら、無害で心地よいものなのではないの?」

「そういう国営放送のアナウンサー的万人から程よく好かれるというのも、考えてみれば気持ち悪くない?偶像崇拝的だわ」

 

なぜこのようなひねくれた輩がもてるのか男性陣の趣向は理解し難いが、リサは妙に男のなにかをくすぐる部分があるらしく、いつも誰かしらに言い寄られアプローチを受けている。おおむね気付き次第粉砕しているが。彼女は人当たりは悪くないが、ひねくれ者でマイペースで、友人として率直に言わせてもらうが特段の美人でもない。だが人の話を真摯に聞くし、どんなつまらない話にもきちんと自分の頭で考え、答えを返す。そういうところに、「この人は自分のことを分かってくれる!」と老若男女問わず多様な人間がコロリとやられてしまうようなのだ。リサいわく、「人として当然の振る舞いをしているだけ」だそうだが。そのように彼女のもて方はいわゆるアイドル的な華やかさではなく、あくまでパーソナルなひっそりとしたもて方なのだ。だから彼女と付き合いの薄い人間は彼女がもてていることを知らない。もててもてて不快に思っていることも。

 

わたしのような、下品だが分かりやすくランク付けをするなら中の中くらいの見た目のいわゆるフツー女子が、そこそこ一生懸命に身なりに気を使い丁寧に化粧をしてみても、なんだかリサのようにいかない。フツーの人として扱われ、別のフツーの人でも代わりがきくとでも言うような態度でかつての恋人たちはわたしの前を通り過ぎていった。…言っていて自分で悲しくなってくる。とはいえ自分の方こそ、その男たちを「フツー、そこそこ、わたしにちょうど釣り合うぐらい」と見下した失礼な評価を内心下していたのではなかったか。

でもわたしだってそんなわたしを唯一無二のかけがえのない人として大事にしてくれる人に出逢いたい、出逢えさえすればわたしだってその人のことをそのように大事にするのに。