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タナカくんは体臭のきつい子だった。
クラスのみんなそれに気づいてた。
誰かがタナカくさいって言った。
みんな確かにそうだって思った。
タナカくんはそんなこと言わないでよって言った。
タナカくんは優しい子だったけど特に他に目立つ特徴のある子でもなかった。
成績も特別悪くもなく、良くもなかった。
いじめられるほどの理由はなかったので、そんなにしょっちゅうみんなタナカくんの体臭について言及しなかった。
夏が来たり、体育の後だったり、ふと思い出したときに誰かがタナカくさいって言った。
そのたびにタナカくんは悲しい顔をして、そんなこと言わないでよって言った。
あたしも多分何回かそれを言った。タナカくさいって。
特に喧嘩になったりもしなかったと思う。覚えてないから。
別にあたしはタナカくんのことが嫌いとか、気に食わないとか、何か嫌なことをされたとか、そんなことは全然なかった。
体臭なんて子供にはどうしようもないことで、そんなこと他人に言うべきじゃないって実感として分かったのはもっとずっと何年も経ってからだ。
ごめん、タナカくん。
もう今どこで何をしているかも分からないけど、最近になって頻繁に彼のことを思い出して、過去の自分を後悔して反省する。
どうしたらよかったのか、無知で純粋で悪気のなかった子供のあたしたちは。
あたしがタナカくんの親だったら、体臭改善の治療を受けさせただろうな、くらいしかあたしの乏しい想像力では思い付かない。