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天才少年が歳を取る。
天才少年は、天才少年と呼ばれた青年になる。
天才少年はすばらしい才能を努力によってさらに輝かせ、有望な青年となる。
青年はさらに道を究め、立派な大人になる。
彼はまだ若いが、多くの業績を持ちウィットに飛んだ発言で聴衆を笑わせることもできる。
かつての天才少年、とわざわざ呼ばれずとも、すばらしいプレイヤーになっている。
彼はたくさんの拍手を一身に受けながら、弛まずこの道を歩み続ける覚悟をとうに決めている。
数年後も、彼は偉大な中堅として活躍している。
人として深みを増し、もう「かつての天才少年」という称号はすでに彼にとって不要なものとなっている。
彼は特異な子供だったが、今は一流の成人したプレイヤーとなり、その自分に満足している。
大人の世界では、皆それぞれに個性を光らせて活躍している。
彼だけが唯一の抜きん出たプレイヤーというわけではない。
それでも彼は焦ったりしない。
それぞれがすばらしい能力を輝かせること、自分も自分の個性に愛着を持ちそれを最大限に発揮させることが佳きことであると彼は認識している。
コンペティションで1位を取ることは価値のあることだが、それはもう十分に少年であった頃に経験した。
彼は自身をより深め、より高めることを今なお楽しんでいる。
さらに歳を重ね中年になっても、突き進むと同時に道の幅を広げたいと考える。
迷いが生まれても、その迷い自体を楽しみ、糧にしたいと思っている。
かつての天才少年は経歴欄に書き切れないほどのさまざまな経験をし、実際に評価され、10代の頃の結果はもはや忘れ去られている。
皺が増え体力が衰えても、円熟味を増し、知識と経験を生かして後進を育てることができる。
かつての天才少年は、自身が天才少年であったことを忘れる。
純粋な楽しみ、成長、勝負への意欲、回り道、迷い、スランプ、新たな発見の全てを経て、かつての少年は一流の名プレイヤーと呼ばれる老年を過ごす。
何代も後の世代になって、彼が伝説と呼ばれているかどうか。
もう本人は興味がない。
全ての今の瞬間を味わい、楽しみ、世界中を楽しませてきた。
彼は時と同じ速さで生きた。
縋らないこと、急がないこと。
誰も知らない、彼の何よりの才能であった。